結婚当初のこと

初めて新居に足を踏み入れたのは8月の暑い盛りの朝だった。人生最大の修羅場を乗り越えたその足で、その前の日は名古屋へ行っていた。

今から思い返すと、結婚した当時夫は今の会社に入っておらず、収入も安定してはいなかった。ただ、当時の私からすれば、とりあえず雨風が凌げる場所と、とりあえずの食べる物と、後は夫がいればなんでも良かった。なぜかこのまま一緒に過ごしていけると信じて疑わなかった。白くて綺麗なワンルームの住居には家電は何も置いていなかった。冷蔵庫も洗濯機も何もかも。初めて買った家電は炊飯器だ。結婚祝いにもらったお米があったので、これを炊いて食べようと言って買った。しかし白いご飯だけでは食べられないのでわかめご飯にしようと、夫がわかめを買ってきて、塩抜きもせずにそのまま炊飯器に白米とわかめを入れて炊いたわかめご飯もどきは、とても食べられたものではなかった。

まよいがもオープン前でオープンの準備で毎日お店に通った。昼に起きて、真夏の日差しの中、洗濯物を担いでコインランドリーまで自転車を走らせる。濡れた重い洗濯物をまた担いで持って帰って、ベランダに干した。その後は掃除をしたりご飯を食べたりしてお店に行く。帰ってくる頃にはもう夜中になっていた。夜中はもうどこのお店も閉まっていて、それでも喉が乾くので、家の前の自販機で2人で100円のジュースを買って飲んだ。自炊することも出来なかったので毎日のように食べていた牛丼やお弁当は2週間ほどで飽きてしまった。

先の見通しも立たないそんな生活だったけど、不思議といつも心は満たされていた。辛いと感じることは全くなかった。ただ今を生きるのに精一杯だった。

あれから半年、引越しをして家電も揃い、今は夫の固定収入で暮らしていけている。まよいがも店長が就任し、連日イベントが行われ、平日でも満員のお客様がいる。少しずつではあるがコミュニティも形成されつつある。半年で色々なことが変わったけれど、全て良い方向に行っている気がする。やっぱりあの時の私の決断は間違いじゃなかった。今なら自信を持ってそう言い切れる。